授業・調査の様子19 文化遺産デザイン研修14

 「京都の歴史を歩こう!2015 上賀茂編」遠足(2015.3 歴史学科上原 駿一)



 2015年3月14日、京都府立総合資料館と共同で「京都の歴史を歩こう!2015 上賀茂編」の府民向け
遠足がおこなわれました。遠足の目的は、観光雑誌には載っていないような歴史を紹介することで、
地域の皆さんにその地域の魅力を再発見していただくことです。そのために過去と現在のつながりを
調べ、現在いる場所が過去はどのような景観であったかを説明していきました。今回の遠足のルート
は、上賀茂を近代から古代まで遡れるようなものとなっており、上賀茂の特色は水と京都近郊である
ことが共通して言えるため「さかのぼり」「水と近郊のまち上賀茂」という2本柱をセールスポイント
にしています。

 当日はあいにくの雨でしたが、上賀茂を歩くことになりました。資料館で上賀茂の絵図を見るとい
う案もあったのですが、全く歩けない天候ではなく、地域の歴史を実感していただくには歩くのが一
番と考え、実施することにしました。

 ガイド役の学生は、受付や最終の打ち合わせのため午前9時15分に集合しました。一般の方の受け
付けは9時30分から始まりましたが、当初の予想をはるかに超える43名の方が参加してくださいまし
た。参加者の内訳も、小学校5年生や高校生から、疎水に含蓄のある方まで幅広く、印象に残るもの
でした。










写真 受付の様子(パンフレットと名札をお渡しする)

 10時に最終的な参加者の人数が確定し、ガイドと参加者は北山通り沿いの門へと移動しました。 参加者3~4人につき学生一人がつくように振り分けが行われましたが、参加者に付く過程で時間をか けすぎたため、30分ほど予定がずれ込みました。参加者名簿は前日に皆で確認し、誰がどなたに付 くかも決めてありましたが、参加者を認識するのに手間取ってしまい遅れにつながりました。この 点は今回の反省点となりました。







写真 資料館での振り分け

 振り分けが終わると、その場で説明が始まりました。内容は「近代の上賀茂」で、鞍馬街道・上 賀茂と軍隊のかかわりを軸に説明されました。鞍馬街道は現在の北山通や下鴨本通が開通するまで メインストリートとして栄えました。また、上賀茂は賀茂川や支流である明神川が流れる水が豊富 な地域であり、京都市内と街道で結ばれる地理的要因から、明治29年(1896)と明治40年に日本陸 軍の駐屯地を誘致する計画がありました。そうしたことを、ガイド作成の地図をお見せしながら解 説しました。  「近代の上賀茂」の説明後、我々は資料館を出発し北山通を北上、次の目的地・穂根束公園まで 歩きました。この間、ガイドは鞍馬街道について、さきほどの内容を補足する形で自分が知ってい ることを参加者にお話ししていきます。  穂根束公園では、「上賀茂の農業」というテーマで、上賀茂の特産品であるすぐきの製造工程を 紹介しました。スケッチブックに工程ごとのイラストを貼り付け、それをめくって紙芝居仕立ての 説明をしました。また、穂根束という文字は中世には「骨塚」と書かれていたことから、「中世の 上賀茂〜田地・地名」というテーマで町名から見た上賀茂の過去と現在についても説明されました。







写真 すぐきができるまでを紙芝居で解説

 地名についての説明が終わると、10分休憩を取りました。ここで、参加者と担当ガイドを2班に わけ、1班(先発隊)は穂根束公園→北大路魯山人の碑→大田神社→社家町→上賀茂神社の駐輪場 というルートを通ります。2班(後発隊)は穂根束公園→大田神社→北大路魯山人の碑→社家町→ 上賀茂神社の駐輪場と行きます。このため1班は2班より5分早めに穂根束公園を出発し、大田神 社で2班を待ちます。2班は大田神社まで行き1班と合流したのち、1班が社家町へ向かったのを 確認して魯山人碑に戻り、そのあと社家町へ向かうという要領です。実はこの二手に分ける方法は 今回が初めてで、今後に向けての実験例となりました。このため反省点も多く出されました。    大田神社では有名なカキツバタや、これを詠み込んだ賀茂季鷹の歌、さらに祭神についてスケッ チブックを用いて説明がありました。神社に柳原愛子(大正天皇の生母)が寄進した灯籠があるこ とを参加者にお伝えすると、参加者がとても興味深く聞いていらっしゃったことが印象的でした。 また、北大路魯山人の碑の前では、上賀茂の社家に生まれた魯山人が上京してから自身のルーツを 探りに上賀茂へ来たことや、想い出が義母(上賀茂の駐在警官の妻)に背負われて見た上賀茂の夕 焼けだったことなど魯山人と上賀茂の固い結びつきが説明され、熱心に聞いてくださった参加者が 多かったです。







写真 カキツバタについて説明









写真 魯山人と上賀茂のつながりを説明

 社家町では、上賀茂神社の末社である藤木神社にて説明を行いました。社家町には明神川が流れ ているため、川と社家町に関するクイズを出題しました。クイズということで、参加者が参加しや すい形式をとったためか、関心を持って下さった方が多いように感じられました。







写真 藤木神社にてクイズを出題

 1班は説明とクイズが終わると社家町を歩いて上賀茂神社の駐輪場まで向かいました。2班も1班が 出発した後、説明とクイズをガイドから受け、同様に上賀茂神社を目指して歩きました。  1班と2班は上賀茂神社で合流し、「古代の上賀茂」というテーマで解説とクイズが出されました。 ここでは上賀茂神社には勅使が派遣され、皇女が斎王としていたことや、賀茂一族には代々特定の 名を受け継ぐ系譜があり、その特定の名を受け継いだ家の方に価値が置かれるという独特の伝統に ついて解説されました。







写真 上賀茂神社での解説

 上賀茂神社ですべての解説が終了したあと、参加者に遠足のアンケートを書いていただきました。 また、個別に熱心に質問をしてくださる方もおり、改めて関心を呼ぶテーマであったことを実感し ました。アンケートを回収し、12時30分頃解散しました。  学生は14時から大学で反省会を開きました。まず資料館の方から意見を拝聴した学生から、事前 に資料館を活用して欲しかったという内容が伝えられました。また、連絡があれば史料を用意して いたという意見も頂きました。  学生側からは多様な意見が集まりましたが、最も多い意見としては事前の詰めが不足していたこ とが挙げられます。具体的には資料館や教員と学生の意思疎通が上手くできなかったこと、受付の 段取り確認を徹底させておくことです。その他、既にほかのグループの参加者同士が仲良くなって いたのに班分けによって分けてしまったことや、同じグループでも灯籠などポイントをじっくり見 たい人と早く歩きたい人がいるなど、グループ編成についても課題が見つかりました。今回は雨天 開催だったが、次回以降同じような状況の際には、歩行のペースも検討する必要があるという意見 も出ました。  2014年の5月から約1年、地域の歴史の魅力をお伝えしていく中で、学生自身も歴史学で培った方 法を実践するため試行錯誤を続けました。この過程で学んだことをデザイン研修終了後も自身の研 究で活かし、後輩に伝えることが次につながります。そのきっかけとして貴重な体験をさせていた だいたことを感謝し、記事を締めくくりたいと思います。