石嶌純男 (Ishijima Sumio, Ph.D.)  E-mail: ishijima@kpu.ac.jp


(1)細胞内のマグネシウムイオンの動きと膜輸送タンパク質
Regulation of intracellular Mg2+ mobilization and Mg2+ transport proteins.


研究テーマの詳細;

細胞が、刺激を受け取ると、その刺激に応答して細胞活動を変化させます。

例えば、動物細胞が増殖刺激を受ければ、細胞が殖えるために生合成代謝系を活性化させ、植物細胞が光を受けると光合成反応を活性化させます。このとき主役を演じるのは酵素です。

そこで、細胞が刺激を感じとり伝えるしくみ(情報受容とシグナル伝達系)と、刺激に応答して酵素活性を変化させるしくみ(代謝調節)を、生化学や分子生物学・遺伝子工学の手法を用いて研究しています。

現在、とくに注目しているのは、マグネシウム (Mg) イオンです。マグネシウムイオンは、細胞内で、多くの重要な酵素の活性を変化させる調節物質です。

われわれヒトにおいても、マグネシウムは循環器疾患、とくに虚血性心疾患(心筋梗塞など)や偏頭痛に関連し、糖尿病との関連も報告されています。

このようにマグネシウムイオンは、生理的に非常に重要なイオンでありながら、マグネシウムイオンの細胞内濃度を変化させるしくみはまだよくわかっていません。

細菌のマグネシウム輸送タンパク質と考えられる CorA タンパク質の立体構造が明らかとなり(Nature, 2006)、そのマグネシウム輸送活性が測定されました(J.Biol.Chem., 2008)。われわれは、世界ではじめて、真核生物(植物のシロイヌナズナ)のタンパク質のマグネシウム輸送活性を試験管内(in vitro)で測定することに成功しました(2012)。現在、シロイヌナズナやイネのマグネシウム輸送タンパク質の解析をすすめています。

このように、マグネシウムイオンの細胞内濃度調節機構とそれにはたらくマグネシウム輸送タンパク質の研究は、まだまだ未知の研究領域です。

マグネシウムイオンの細胞内の濃度をコントロールできれば、目的に応じた「超」代謝系をもつスーパー細胞が得られるかもしれません。


References
  1. "Light-induced increase in free Mg2+ concentration in spinach chloroplasts: Measurement of free Mg2+ by using a fluorescent probe and necessity of stromal alkalinization", Ishijima, S., Uchibori, A., Takagi, H., Maki, R. and Ohnishi, M. Arch. Biochem. Biophys. 412 (2003) 126-132
  2. "Functional reconstitution and characterization of the Arabidopsis Mg2+ transporter AtMRS2-10 in proteoliposomes", Ishijima, S., Shigemi, Z., Adachi, H., Makinouchi, N. and Sagami, I. Biochim. Biophys. Acta 1818 (2012) 2202–2208
  3. "Magnesium uptake of Arabidopsis transporters, AtMRS2-10 and AtMRS2-11, expressed in Escherichia coli mutants: Complementation and growth inhibition by aluminum", Ishijima, S., Uda, M., Hirata, T., Shibata, M., Kitagawa, N., and Sagami, I. Biochim. Biophys. Acta 1848 (2015) 1376–1382
  4. "The homologous Arabidopsis MRS2/MGT/CorA-type Mg2+ channels, AtMRS2-10 and AtMRS2-1 exhibit different aluminum transport activity", Ishijima, S., Manabe, Y., Shinkawa, Y., Hotta, A., Tokumasu, A., Ida, M. and Sagami, I. Biochim. Biophys. Acta 1860 (2018) 2184–2191
  5. "Functional analysis of whether the glycine residue of the GMN motif of the Arabidopsis MRS2/MGT/CorA-type Mg2+ channel protein AtMRS2-11 is critical for Mg2+ transport activity", Ishijima, S., Shiomi, R. and Sagami, I. Arch. Biochem. Biophys. 697 (2021) doi:10.1016/j.abb.2020.108673


(2)味覚修飾物質のタンパク質への結合と作用機構
Characterization of anti-sweet substances for sweet taste response.


研究テーマの詳細;

世界には、味を変えてしまう性質をもっている物質(味覚修飾物質)がいろいろとあります。その中で、今、日本で口にすることが多い(市販されている)物質が、ギムネマ茶に含まれているギムネマ酸という甘味抑制物質です。

ギムネマ酸は、インド原産の葉に含まれています。インドでは、この葉は、2000年以上前に糖尿病の治療に用いられてきました。そして、この葉を噛むと甘味を感じなくなります。実は、ギムネマ酸には、甘味抑制作用の他に、小腸でのブドウ糖の吸収抑制作用や、血糖値や血中インスリンレベルの低下作用があります。この作用があるために、ギムネマ酸あるいはギムネマ茶は、健康食品あるいはダイエットと関連づけられて市販されています。

ギムネマ酸を口に含むと、たとえ口を水ですすいでも、30分から1 時間は甘味を感じなくなります。しかし、おもしろいことに、味を感じなくなるのは、甘味だけで、他の塩味や苦味はちゃんと感じます。それでは、何故甘味を感じなくなるのか、というと、実はその物質的機構がまだ証明されていません。そこで、われわれの研究テーマの一つが、「ギムネマ酸の生理作用発現の分子的解明」です。

われわれは、ギムネマ酸が、解糖系酵素の一つ グリセルアルデヒド 3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)と結合することを見つけました。近年、この GAPDH という酵素は、細胞死(apoptosis) や細胞内輸送に関与し、また、この酵素自身が タンパク質リン酸化酵素活性ももっていて、たとえば、GABA 受容体をリン酸化すること、また、K チャネルと物理的に結合していること、などが次々と報告されています。さらに、ギムネマ酸は、グリセロール 3-リン酸デヒドロゲナーゼにも結合します。

われわれは、ギムネマ酸の、糖代謝あるいはその周辺への多様な作用に注目して、他のタンパク質についても、ギムネマ酸との相互作用を解析しています。


References
  1. "Studies on the proteins from fungiform papillae of bovine tongue: Glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase is bound to gymnemic acid-coupling gel", Izutani, Y., Hirai, H., Takei, T., Imoto, T. Ishijima, S. and Ohnishi, M. J. Biol. Macromol. 2 (2002) 60-63
  2. "Gymnemic acids inhibit rabbit glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase and induce a smearing of its electrophoretic band and dephosphorylation", Izutani, Y., Murai, T., Imoto, T., Ohnishi, M., Oda, M. and Ishijima, S. FEBS Lett. 579 (2005) 4333-4336
  3. "Gymnemic acid interacts with mammalian glycerol-3-phosphate dehydrogenase", Ishijima, S., Takashima, T., Ikemura, T. and Izutani, Y. Mol. Cell. Biochem. 310 (2008) 203-208
  4. "Binding of gymnemic acid II to mammalian glycerol-3-phosphate dehydrogenase", Ishijima, S., Nomura, S., and Sagami, I. J. Biol. Macromol. 22 (2022) 37-46