京都府立大学名誉教授花と緑の生活文化研究所下村 孝 |
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●最近の研究の成果
家庭やオフィスでの室内植物の利用実態とその役割を探る
身近な植物が癒しや安らぎをもたらすことは,ここ数十年の間の研究で明らかにされてきました。
しかし,家庭における植物の利用実態や人々の評価についての調査は見あたりません。
また,オフィスにおける室内植物の利用は,長く,中大型の観葉植物に限られていました。しかし,近年,卓上における小型室内植物の利用が広がってきています。
そこで,小型室内植物が中大型シル無い植物同様に,癒しやストレス軽減の機能を持つ可能性を探りました。
さたに,小型室内植物の内,苔玉の利用実態や特性を探りました。
現在は,苔玉以外の小型室内植物を含めて,これらの植物の評価構造を探っています。
論文
●下村 孝・黒宮ゆかり・上町あずさ,2007,家庭における室内緑化植物の利用実態と利用者の意識,人間・植物関係学会,6(2):31-39
●長谷川祥子・下村 孝,2008,室内植物として利用される苔玉の利用の実態および評価に関するアンケート調査,ランドスケープ研究,71(5):833-836
●長谷川祥子・下村 孝,2009,小型室内植物として普及しつつある苔玉の販売実態,人間・植物関係学会雑誌,9(1):23-30
●長谷川祥子・下村 孝,2010,作業室内の小型および大型植物が作業者の心理に及ぼす影響の比較検討,緑化工学会誌,36(1),63-68
グラウンドカバーの生育・利用特性を探る
わが国の花壇やコンテナにはヨーロッパで改良された草花が多く使われています。しかし,これらの植物はわが国の暑い夏に不向きであるなど,解決すべき課題が少なくありません。一方,わが国に自生するフッキソウ,リュウノヒゲ,ヤブランなどの常緑の草花はグラウンドカバーと呼ばれる常緑の地被植物として欧米の庭園で広く利用されています。
わが国の気候で育ったこれら自生の植物をガーデニングや都市緑化の中で利用することで夏の花壇やコンテナを美しく維持し,管理の手間を省くことができると考えられます。
これまで,これらわが国に自生する植物の内,キチジョウソウ,ヤブラン,ジャノヒゲなどを使って遺伝資源としての活用を計るための研究を行い,繁殖効率を高めるための研究も行ってきました。
論文
●Shimomura, T., Hirai, J. and Kondo T.2001,Effect of size, age and division of tuber on the growth of Oxalis articulata Savigny Journ. Jpn. Soc. Reveg. Tech.27(1):131-135
●近藤哲也・高橋孔明・深井誠一・石本里見・下村孝,2003,ノシラン(Ophiopogon jaburan Lodd.)種子の発芽特性と貯蔵法および実生の初期生育,園芸学研究,2(3),271-276
●勝川健三・下村 孝,2006,イモカタバミ(Oxalis articulata Savigny)の生育と開花に及ぼす温度と日長の影響,緑化工学会誌,32(1):38-43
リュウノヒゲの利用(左)とキチジョウソウ果実(右)
京都の庭園から情報提供を
京都には平安時代から大正まで,歴史に名を残す庭園が数多く,訪れる観光客も多くなっています。しかし,来訪者への情報提供は十分とはいえません。そのことが,庭園の魅力や重要性の理解を不十分なものとし,リピーターの増加に妨げとなっている可能性があります。
庭園への来訪者やにたいするアンケートや実際に庭園を訪れての実態調査で,現状を明らかに知ると同時に今後のあり方を考えています。
論文
●下村 孝・水野聖子・加藤博,2004,京都の公開庭園における観光客への情報提供の実態と今後のあり方,ランドスケープ研究,67(5):381-386
京都の庭園の保全と管理のあり方
京都の庭園を維持管理し,後世に伝える作業は重要です。どのように維持管理し,どんな形で残すのか,その考え方を,日常的に庭園管理に従事している人たちに訊ねた結果をまとめました。
論文
●加藤 博・下村 孝,2006,歴史的庭園を維持管理する京都の造園業者の現状に関するアンケート調査,ランドスケープ研究,69(5):425-430
●加藤博・下村 孝,2008,京都における名勝庭園管理者へのアンケートによる意識調査,ランドスケープ研究(オンライン論文集)Vol. 1:1-6(公開日,2008年12月25日)
●加藤博・下村 孝,2009,日本庭園に関するシンポジウム受講者に対する意識調査による文化財庭園の管理のあり方,ランドスケープ研究,72(5):909-914
ガーデニングブームの実態とわが国ガーデニングの今後
雑誌や書籍を通じて,あるいは,熱心にガーデニングに取り組んでいる人たちにアンケートを行い,ブームの実態を探りました。
さらに,住まいの門や玄関先でコンテナ植の植物を使ってガーデニングが楽しまれています。毎月1回写真に収め,その移り変わりからガーデニングの今後の課題を探りました。
論文
●高橋ちぐさ・下村孝,2002,雑誌・書籍の出版動向及び記事内容から見たガーデニングブームの実態,ランドスケープ研究,65:397-400
●下村孝・船越ゆう起・高橋ちぐさ,2002,園芸愛好家などへのアンケート調査によるガーデニングブームの実態調査,農業教育学会誌,33:65-74
●高橋ちぐさ・下村孝,京都市左京区の住宅地におけるコンテナガーデニングの実態調査,ランドスケープ研究,2005,68(5):473-478
町家における坪庭・前栽の現況とその利用の実態調査
環境共生の住まいに関心が集まっています。京都の町家は間口が狭く奥行きの深い独特の構造を持っています。狭くて暗い住空間に光と風を取り込む工夫として,坪庭や前栽という庭が設えられています。それらの庭の実態と,生活する人たちの評価を探り,今後の環境共生を探りました。
論文
●下村孝・福永才子・加藤博,京都の町家における前栽と坪庭の実態とその役割,ランドスケープ研究,2005,68(5):467-472
●Hiroshi Kato, Motoko Fukunaga, Junko Sobagaki, Takashi Shimomura, 2006, A relax evaluation factor in gardens of Kyoto townhouse, Proceedings of the 7th Asia Engineering and Management System Conference 2006, 309-314, 17-20 December 2006, Bangkok Thailand
屋上緑化のあり方を探る
セダムやシバを一面に敷き詰めた屋上は本当に快適な空間だのだろうか。そんな疑問から,様々な形態の緑化された屋上をビデオ画像に収め,20人の人たちに評価をお願いしました。緑の量が多く,多様な緑の空間としての屋上が高い評価を得ることが分かりました。続いて,屋上の面積や屋上にある建物,屋上からの眺望や緑の量が緑化された屋上の景観や居心地にどんな影響を及ぼすかを調べ,緑の量が多く眺望の効く屋上が望ましいことをデータをもとに実証しました。
論文
●長岡希・岡田準人・下村孝,2003,ビデオ画像を用いた屋上緑化の景観評価構造の解析,緑化工学会誌,29(1),113-118
●佐々木ゆき・岡田準人・下村孝,2004,緑化された屋上における景観要素の違いが利用者の景観評価に及ぼす影響,緑化工学会誌,30(1),157-162
●大西竹志・下村 孝・水野志穂・今西純一,2006,屋上緑化におけるマット植物と高密度不織布を用いた薄層緑化技術の検討,緑化工学会誌,32(1):68-73
●村上大輔・下村 孝,2007,緑化された屋上の異なる3地点における温熱環境要素の測定と主観申告実験による快適性の検討,緑化工学会誌,33(1):152-157
●木野村泰子・下村 孝,2008,オフィスワーカーが休憩のために訪れる屋上の現状と屋上緑化の今後のあり方,ランドスケープ研究,71(5):827-832
●田中健・村上大輔・下村 孝,2008,京都を事例とした景観評価実験と眼球運動の測定による好ましい屋上緑化形態の検討,緑化工学会誌,34(1):133-138
●烏雲巴根・長谷川祥子・下村 孝,2010,日本人学生および中国人留学生を被験者とした屋上緑化の景観評価,緑化工学会誌,36(1),69-73
フェンスをつる植物で覆うための技術指針を探る
戸建て住宅の外構に作られる塀やフェンスをつる植物で覆うと景観もよくなり,温度を下げる効果もあることが分かっています。それでは,どんな植物をどのように植えればいいのか,常緑のつる植物・ムベを用いて,利用特性を確かめました。
また,京都市内の住宅を中心に,どんな壁面緑化が行われているのかを調査し,壁面緑化に取り組んでいる人たちにアンケートを行いました。これからの壁面緑化の普及に活かしたいと思います。
その他に,巻き付き型のつる性植物であるテイカカズラの流通を調べました。その結果,国内産のテイカカズラとケテイカカズラの他に中国産のトウキョウチクトウが混同して流通している実態が明らかとなりました。
このことは,生物多様性の観点から,見過ごすことのできない問題です。そこで,花や葉茎などの形態から,3者を分類する指標を探りました。また,3種から派生したと考えられる園芸品種についても確かめました。
論文
●岡田準人・下村孝・田中孝雄・畑明宏,2002,植栽間隔及び誘引方法がメッシュ径の異なるフェンスを被覆させたムベ( Stauntonia hexaphylla Thunb.Decne.)の成長に及ぼす影響,緑化工学会誌,28(1):55-60
●岡田準人・山崎美幸・下村孝,京都市内の戸建て住宅で実施されている立面緑化の管理実態と住民の意識,ランドスケープ研究,2005,68(5):883-888
壁面緑化用つる植物テイカカズラ類の分類と利用特性を探る
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・写真左から 石壁を覆うヘデラ(パリ郊外);フェンスを覆う巻き付き型のカロライナジャスミン;壁面をカバーして秋の彩りを添えるツタ(アムステルダム);大口径の排気口を修景するオオイタビ(シンガポール・チャンギー空港)
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時々覗いて「進歩」の様子を見届けてください。
巻き付き型のつる性植物であるテイカカズラの流通を調べました。その結果,国内産のテイカカズラとケテイカカズラの他に中国産のトウキョウチクトウが混同して流通している実態が明らかとなりました。
このことは,生物多様性の観点から,見過ごすことのできない問題です。そこで,花や葉茎などの形態から,3者を分類する指標を探りました。また,3種から派生したと考えられる園芸品種についても確かめました
さらに,テイカカズラは,成形枝が巻き付きと気根による付着という二つの特性を発揮してフェンスや壁面を登攀することが知られています。しかし,その詳細は分かっていません。その特性を探りました。
論文
●上町あずさ・下村 孝,2007,テイカカズラ属数種の花の形態による同定の試み,緑化工学会誌,33(1):105-110
●上町あずさ・下村 孝,2008,近畿中部自生株および流通株を用いたテイカカズラ属(Trachelospermum Lem.)の簡易同定法の検討,緑化工学会誌,34(1):115-120
●上町あずさ・下村 孝,2009,緑化用および鑑賞用植物として流通しているテイカカズラ属(Trachelospermum Lem.)園芸品種の分類,緑化工学会誌,35(1):75-80
●佐々井俊文・下村 孝,2010,ケテイカカズラ(Trachelospermum jasminoides var.pubescens)の気根および巻きつき茎による板塀やフェンスへの登攀特性,緑化工学会誌,36(1),45-50
緑の少ない都市において,人々生活と共に生きてきた巨樹・巨木の保全は重要な課題です。町中の巨樹・巨木は都市計画の中で姿を消しつつありますが,学校の校庭にその姿を見ることが少なくありません。それら,小中学校に残る巨樹を環境教育におり入れることで,児童・生徒の自然への関心を高め,その結果として,巨樹・巨木の保全が計れるのではないかと考えて調査を続けています。
論文
●長友大幸・下村 孝,2006,校内の樹木を用いた環境教育が中学生の自然接触行動に及ぼす影響,日本農業教育学会誌,36(2):55-64
●長友大幸・下村 孝,2006,校庭の巨樹を用いた環境教育受講経験が児童の意識に及ぼす影響査,ランドスケープ研究,69(5):829-834
●長友大幸・下村 孝,2010,校庭に残存する巨樹への接近頻度と環境教育受講経験が児童の意識に及ぼす影響,ランドスケープ研究,73(5):741-746
キチジョウソウの開花(左)と紅葉(右))
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