氏名 :矢内 純太 (Junta YANAI)
所属 :京都府立大学・生命環境科学研究科・
応用生命科学専攻・土壌化学分野
〒606-8522 京都市左京区下鴨半木町1-5
Tel & Fax: 075-703-5649
E-mail: yanai@kpu.ac.jp (@は半角)
URL: http://www2.kpu.ac.jp/life_environ/bioanal_chem/yanai.html
職名 :教授
学位 :博士(農学)
専門分野:土壌学
研究業績:最近の研究業績一覧は「こちら」、 「土のひみつ-食料・環境・生命-」(博友社 2015)を出版しました。
研究テーマ:
-土壌と植物の関係解析に基づく土壌の肥沃度と健全性の定量評価法の確立
および持続的な土壌管理手法の提示-
農業生産の基盤であり環境の基盤でもある土壌を植物との関わりの中で位置づけ、その適切な利用と保全に関する研究を行っている。すなわち、安全かつ安定した食料生産を実現するための基礎情報を得ることを目的として、日本の農耕地土壌の各種元素の網羅的解析や、熱帯アジア水田土壌における「緑の革命」後の過去50年の肥沃度変遷の評価、熱帯・乾燥地農業生態系における物質循環の評価と持続的土壌管理法の提示、土壌肥沃度評価法の検討と根域/根圏における養分供給機構の解析などに取り組んでいる。また、生産基盤としての機能を将来の世代に引き継ぐため、土壌の放射性セシウム吸着/脱着挙動の解明や重金属汚染土壌の修復法の確立に関する研究や、土壌特性値の空間変動解析と合理的土壌サンプリング法の検討も行っている。これらの研究を通じて、土壌の生産性と健全性を維持向上させる方法を提言し、土壌の適切な利用と保全ひいては地球環境の保全に寄与したいと考えている。
1.日本の農耕地土壌における各種元素の形態別定量と肥沃度/健全性指標の提示
土壌の元素組成および各種元素の形態別存在量を網羅的に解析することは、土壌の肥沃度評価はもちろん、重金属等有害元素の挙動を理解できることから土壌の健全性評価の意味でも大切であり、さらに人の必須元素の多寡を理解できる点で人の健康に関わる要因評価の意味でも重要である。そこで、日本全国から採取した農耕地土壌180点を用いて、各種元素の全量と可給態量の定量評価を進めている。この研究は、日本における食料生産・環境保全の基礎情報となるとともに、岩石や河川水との対比により日本の陸域環境における物質循環を理解する上でも役立つものと考えられる。さらに、アジアの農耕地土壌の広域評価の結果と合わせて、日本の農耕地土壌のアジアにおける位置付けにもつながるものである。
2.熱帯アジア水田土壌における「緑の革命」後の過去50年の肥沃度変遷の評価
1960年代に始まった「緑の革命」により熱帯アジアの水稲収量は向上したが、それに伴う施肥量ならびに収奪量の増加が土壌肥沃度にどのような影響を与えてきたかについては十分な知見が得られていない。そこで、1960年代から70年代に熱帯アジア10か国の水田土壌肥沃度を評価したKawaguchi & Kyuma (1977) とほぼ同一地点で2010年代に改めて水田土壌を採取し、過去50年間での土壌肥沃度の変化を定量的に評価するとともに、今後の変化の予測を通して熱帯水田土壌の持続的管理に関する指針を示すことを目的とする。現在、「緑の革命」の影響の強かったフィリピンと比較的弱かったタイとを対象に、肥沃度変化の違いおよびその規定要因の違いに関して定量的な評価を進めている。
3.熱帯・乾燥地農業生態系における物質循環の評価と持続的土壌管理法の提示
熱帯における農業生態系は基本的な土壌肥沃度の低さに加え、近年の人口増加および農業集約化のために、その持続性が懸念されている。そこで、熱帯農業生態系における土壌と植物間の物質循環を捉えるとともに、土壌荒廃の抑制およびその生態環境における持続的な土壌管理法(土地利用法)の提示を試みている。調査対象地としては、タイ・インドネシア・フィリピン・カザフスタンなどが挙げられる。
4.土壌肥沃度評価法の検討と根域/根圏における養分供給機構の解析
土壌中の窒素・リン・カリウムをはじめ微量元素をも含む各種養分元素に関して、その供給機構を考慮した上で、従来の「土壌肥沃度」評価法の再検討および新たな評価法の確立に取り組んでいる。特に、窒素について形態・可給度に応じた分画定量法を用いて、幅広い土壌の窒素環境を定量評価し、その規定要因の解明を進めている。また、植物が直接養分を吸収すると考えられている土壌溶液組成の植物生育に伴う動態を通じて、「根域」レベルで養分分布の時間的空間的な変化を把握しその動態制御機構を明らかにするとともに、土壌と植物の直接のInterfaceである「根圏」における土壌と植物の養分供給・吸収機構ならびにそれらの相互作用についても研究を進めている。さらに、日本の農耕地の土壌肥沃度についての多元素の形態別評価も行っている。
5.土壌による放射性セシウムの吸着/脱着挙動の機構解明と植物への移行リスクの低減法の確立
東日本大震災後に特に注目を浴びている放射性セシウムは、土壌中に存在する粘土鉱物の一種である雲母類(イライト様鉱物)の層末端開裂により生じる「フレイド・エッジ」と呼ばれる場所に強く固定されている。しかし、土壌中の雲母の存在量やその給源、雲母の風化程度(開裂程度)とセシウム固定能との関係などは未だ十分分かっていない。そこで、日本や世界の様々な種類の土壌について、雲母類の存在量や開裂の程度、そしてフレイド・エッジへのセシウムの吸着を阻害するAlポリマーの影響などを調べることで、放射性セシウムの移動性を規定する鉱物学的な要因の解明を目指している。また、それら土壌の放射性セシウム吸着/脱着能と植物への移行リスクとの定量的関係についても研究を進めている。さらに、日本の黒ボク土の放射性セシウム吸着能と関連して、日本の土壌の鉱物性に及ぼす風成塵の影響についても調べている。
6.土壌の重金属汚染の機構解明とその修復手法の確立
近年再び問題となっている農耕地における重金属汚染土壌を修復することを目的として、Cdを体内に集積する能力の高い植物に土壌中のCdを吸収させることにより、従来の土木工学的手法よりも効率的かつ安全にCd汚染土を浄化・修復する手法(Phytoremediation)の確立を試みている。すなわち、極めて高濃度のCdを集積する超集積植物(Hyperaccumulator)を利用し、その浄化効率に及ぼす土壌特性の影響を解析することにより、土壌のタイプ並びに汚染状況の異なる現場の汚染地で適切な浄化を行うための評価手法および土壌管理技術の確立を目指している。
7.土壌特性値の空間変動解析と合理的土壌サンプリング法の検討
水田における土壌特性値ならびに収量の空間変異をジオスタティスティクスという手法を用いて解析し、それらの関係を明らかにすることにより、空間変異を考慮した局所的な圃場管理(精密農業:Precision Agriculture)を行うための基礎情報を与えることに取り組んでいる。また数年継続的に採取した土壌データを用いて面的データの時間的安定性の評価を行い、さらにサンプリング数とデータの信頼性の関係解析により合理的土壌診断手法の検討にも取り組んでいる。さらに、水田以外の農業生態系において、土壌特性値と環境負荷量(N2O発生量やCO2放出量など)との空間的な関係解析についても研究を進めている。
所属学会 :
日本土壌肥料学会(理事・関西支部長)、日本ペドロジー学会(評議員)、アメリカ土壌学会(Soil Science
Society of America)、英国土壌学会(British Society of Soil Science)、国際土壌学連合(International
Union of Soil Science)、日本熱帯農業学会、日本分析化学会
賞罰 :
# 第24回日本土壌肥料学会奨励賞(2006)
根域および圃場スケールでの養分動態に基づく土壌の養分供給機構の解明
# 日本土壌肥料学会欧文誌論文賞:SSPN Award(2006)
Yanai,
J., Mishima, A., Funakawa, S., Akshalov, K. and Kosaki, T. 2005: Spatial
variability of organic
matter
dynamics in the semi-arid croplands of northern Kazakhstan. Soil Science and
Plant Nutrition,
51,
261-269.
学歴 :
1990年3月 京都大学農学部農芸化学科卒業
1992年3月 京都大学大学院農学研究科修士課程修了(農芸化学専攻)
1993年4月 英国スコットランド作物研究所へ留学(1994年1月まで)
1995年3月 京都大学大学院農学研究科博士課程研究指導認定
1995年7月 同退学
1998年3月 京都大学博士号(農学)取得
職歴 :
1995年7月 京都大学農学部助手に採用(農芸化学科土壌学分野)
2002年4月 京都大学大学院地球環境学堂助手に配置換(陸域生態系管理論分野)
(農学研究科両任)
2002年8月 英国ローザムステッド研究所にて研究に従事(2003年8月まで)
(日本学術振興会の特定国派遣研究員)
2005年4月 京都府立大学大学院農学研究科助教授(生物生産環境学専攻)
2007年4月 京都府立大学大学院農学研究科准教授(生物生産環境学専攻)
2008年4月 京都府立大学大学院生命環境科学研究科准教授(応用生命科学専攻)
2011年4月 京都府立大学大学院生命環境科学研究科教授(応用生命科学専攻)
現在に至る
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