私の専門は「どじょうがく」です-こう言うと、皆さんはどんな学問を想像しますか?多くの方は魚の泥鰌を連想されるようですが、実は「土壌学」という学問分野があります。正直なところ、私も大学生になるまでその存在を知らなかったのですが、要は地球の陸地表面を薄く覆っている「土」のことを研究する学問です。土壌は、岩石がその場所の気候や地形や生物など環境の影響を受けて長い時間をかけて出来上がったもので、国や地域によってさまざまです。植物が陸地へ上った約4億年前から育まれており、今では陸上生物に生存の場を与え、植物に養分や水を供給して森林や作物を育て、また生物遺体を分解し様々な化学物質を吸着保持するなど、食糧生産の基盤となり環境の要となっています。すごいでしょう、土壌って。
ただ、土壌があまりにさりげなく存在しているので、我々はそれがどれだけ多くの働きを持ち、またどれだけ貴重なものであるかを見過ごしているように思えます。そのため、ともすれば土壌を不適切に利用して、荒廃させたり汚染させたりしてしまいます。そこで私は、さまざまな土壌を適切に利用して持続的かつ安全に食糧生産を行えるよう、土壌の肥沃度評価や土壌の養分供給機構の解明、土壌の不均一性/空間変異の評価と管理、さらには荒廃/汚染した土壌の修復を含む土壌の保全に関する研究などを行っています。こう書くと難しそうですが、実際には日本全国はもとより、中国、タイ、カザフスタン、英国、タンザニア等多くの場所を訪れその地の土壌と農業と人とのつながりを調べるとともに、研究室でさまざまな実験を行うことによって、土壌のことを学んできました。
生物の働きがないと土壌ができないので、土壌は地球にしかありません(今のところ)。その意味では、地球は「水の惑星」であるとともに、「土の惑星」であり、土壌を守ることが地球を守ることだと信じています。皆さん、そう思いませんか?
農学研究科 生物生産環境学専攻 助教授 矢内純太
(2006年 京都府大公報、150、7 「研究室へようこそ」より)