研究内容


本研究室は,土を使わない「養液栽培」を研究の大きな柱にしています.
その中でも,多収、高品質の野菜及び花卉類の安定生産を行うため、園芸作物の発育に及ぼす栽培環境の影響を明らかにするとともに、園芸作物が持つ潜在的な成長力を開発する教育と研究を行います。特に、トマトなどの果菜類、葉菜類及び根菜類に発生する種々の生理障害の発生原因の究明と障害回避技術の確立,並びに環境負荷が少なく生産効率の高い新しい養液栽培技術の確立を目指しています。


(1)養液栽培の技術確立に関する研究 (養分吸収特性、発育異常、 生理障害、培養液の殺菌)

養液栽培はいわゆる「土を使わない栽培」で,根の存在する場所(「根圏」といいます)を地面から隔離して,植物がそのまま吸収できる濃度の肥料成分を水に溶かして作った「培養液」を与える,という栽培方法です.
この栽培法により,植物は一般により早く,より大きく成長します.結果として多収になります.
現在でも野菜ではトマトやイチゴ,サラダナ,ミツバなどの多くの野菜が養液栽培で生産され,既に皆さんは普通に口にしています.
いっぽう,養液栽培は人為的に植物の根にストレスを与えること,それをコントロールすることが容易であるという特徴があります.これは植物が水を吸収しにくくするということになるのですが,結果として果実は小さくなりますが,その味が濃くなるということが起こります.このような方法で「高糖度トマト」など高い付加価値を持った野菜の生産も行われています.
ちなみに,いわゆる「植物工場」は高度な制御された環境条件下(温度や湿度,光強度など)で養液栽培を行うというものです.
通常の養液栽培では植物が遭遇するストレスは通常の土耕(地面の土に植えて栽培する方法)と比較して小さいので,植物は肥料を過剰に吸収しがちになります.それが時として収量に結びつかない場合があります(これを「ぜいたく吸収」と言います).本研究室では植物の養分吸収特性と収量の関係を明らかにすることによって,より効率的な施肥方法の確立を目指しています.
また,養液栽培に限らず土耕でもそうなのですが,植物を栽培していると病気ではない異常が発生することがあります.これを生理障害と言います.
例えばトマトの「尻腐れ果」やレタスの「チップバーン」などです.また,培養液中の特定の物質などによる根傷みなどもあります.これらの発生原因や特徴を明らかにして,さらに発生抑制法を確立することにより養液栽培における安定生産技術の確立を目指しています.

(2)野菜の高品質化に関する基礎的研究 (シュウ酸・硝酸や褐変物質、粘質物,機能性成分などの含有成分やテクスチャなど)

野菜の品質は多くの場合,甘さをあらわす「糖度」やビタミンやミネラルなどの栄養素で語られますが,それ以外の品質の要素があります.
野菜の一部,体に良くないとされる成分が含まれている場合があります.例えば,ホウレンソウには尿路結石の原因物質であるシュウ酸が含まれています.またホウレンソウに限らずレタスのどの葉菜には肥料として与える硝酸イオンが植物体内に蓄積する場合があります.これは消化の過程で発がん性を有する「ニトロソアミン」という物質を生成するとされており,硝酸イオン含量の低減が求められています.また,カカオやブドウなどに含まれるポリフェノールは一般に体に良い物質とされていますが,淡白な味のヤマノイモなどでは褐変の原因となり,肉質も悪くなるため,含めれない方が良い成分です.さらに,野菜の物理的品質として一般には「硬さ」が論じられますが,トマトでは時として粉っぽい「粉質性」の強い果実が見受けられます.このような要因は硬さではなく,物理的品質の総合的な指標であるテクスチャ(「舌ざわり」と訳されます)の1要因として考えられています.一方,近年野菜の品質として注目されているのが「抗酸化性」や「抗変異原性」といったいわゆる「機能性成分」です.本研究室ではこのような品質に関する要因を栽培条件または貯蔵条件によりコントロールする技術の確立を目指した研究を行っています.

(3)新しい野菜導入のための基礎的な研究

世界ではさまざまな野菜が食べられていますが,日本人はそのうちの一部しか知りません.その中にヤマノイモの仲間であるダイショやカブの仲間ですが花を食べるブロッコリー・ラブなどがあります.本研究室では,まだ日本ではあまり知られていないこれらの野菜を新しい野菜として導入するための基礎的な知見を得ることを目的として研究しています.