設計趣旨
私たちの生活はインターネットや携帯電話の普及によって大きく変わってしまった。情報社会にどっぷりと浸かり込んでしまった私たちがそこから抜け出すことはもはや困難であろう。しかし夥しい量の情報は私たちを盲目にする。自分で考え解決しようということをせず、目の前の真偽の分からない情報に左右されてはいないだろうか。また、ネット上で顔も知らない相手と友達になることや、メールだけでやりとりを済ませてしまうことが当たり前になってはいないだろうか。自分と向き合う時間や他人を思いやる心がおろそかになってはいないだろうか。ここで提案したいのは、日々のそうした生活から離れ自分と向き合い、自己と他の関係をゆっくりと見直す場所である。 古くから宗教の世界では、座禅や瞑想を通して内なる自分と向き合い、自己の生き方や人生の方向性を見いだしてきた。身近なところで言えば、美術館は作品を通して自己との対話を図るための場所であるし、散歩という行為も歩くことや周囲の景色を通して自分と向き合うという一種の作業だと考えることができる。安藤忠雄の「地中美術館」は3人の作家の作品を永久展示し、個々の作品ごとに作品を体感する建築空間を構成している。開口部が地上にある以外は、施設全体が全て地下に埋められている。地下にありながら自然光を採り入れられ、一日のうちでも時間によって作品の見え方が変化する。また、地下に差し込む光は地上に広がる豊かな自然を彷彿とさせる。ドイツにある「インゼル・ホムブロイヒ美術館」は風景に調和させて野外作品や芸術家のためのアトリエ、彫刻家エルヴィン・ヘーリヒによるミニマル彫刻状の展示パヴィリオンを点在させている。美的体験のみを目的としてパヴィリオンには照明、空調、監視員、タイトルカード・キャプションがほとんどなく、展示品(東洋の古代遺物と西欧の現代美術・工芸)の配置の時空間系列は交錯している。この2つの美術館は光や空間を工夫し空間体験の深さ、純度を追求した建築といえる。また、回遊しながら作品を鑑賞させる共通の手法は、訪れた人に自己との対話をうながす。本計画では、公園という誰もが自由に時間を過ごすための空間を設計する。回遊しながら周りの自然や施設を体験することで、訪れた人に自己との対話をうながす。