設計趣旨
経験するとは与えられたものに主体的に働きかけて、そこから何かを生み出すことである。地理学者のエドワード・レルフは「場所は生きられる世界の直接に経験された現象であり、それゆえ意味やリアルな物体や進行しつつある活動で満たされている」と述べ、また地理学者のイーフー・トゥアンは「空間は、限定され意味をあたえられていくのに合わせて、場所に変化していく」と述べている。しかしこのような経験をすることができる空間は現代において減少しているのではないかと考える。特に近年の地方における効率的かつ流動的で、地域の場所の意義に対し配慮のない宅地開発はその地域特性を多様性から均質性へ、経験的秩序から概念的秩序へと変化させている。この変化によって、地方の形骸化が進行し、人々の経験から作り出される情緒的価値を創造する場所が減少しているのではないかと考える。そのような状況の中、建築はどのような手法によって経験を促す空間として展開され、地域の人々に共有されていくのかが重要になると考える。地域の人々が空間を使いこなし、住みこなしていくことによって、多種多様な地域特性の獲得にもつながり、人々と場所がより親密な関係を構築することができると考える。以上を踏まえ、本研究では、地域の人々が主体的に働きかけ、意味を与え、地域に滲透していく空間を「エートス空間」として意味づけるとともに、エートス空間の分析から、均質化する地方における経験を通した場所と人々の新たな結びつき方の可能性について考察し、具体的な設計案として提示することを目的とする。