修了生+卒業生>福田隼人



卒業研究(作品) 音の建築/音を主題とした自然美術館の設計

設計趣旨
 私たちは開かれた空間や風景を視覚で感じていると同様に、私たちの周りには常に音が存在し、それは意識的、無意識的に私たちの中へと流れ込む。音は視覚だけでは得られない空間の広がりを私たちに演出する。それは音を発するものと空間が出会うことによって生み出されるものであり、音源だけでは音として存在することができない。音を作り出すもの、その音が響く空間、その空間を感じる人、音はそれら一連の環境の中で存在するものであり、単独では語れないものなのである。フランク・ロイド・ライトの設計による住宅「カウフマン邸」は音の連続性により内部と外部の連続性に着目した事例である。部屋中に作られた小さな窓によって、 屋内のいる場所のどこにいても、それぞれ違った小川のせせらぎや木々のゆらぐ音が入り込んでくるように設計されている。室内に居ながら、自然を遮断するのではなく取り込み一体化しようとする意図が強く見られる。ピーターズントーの設計による博覧会パヴィリオン「サウンドボッックス」は、連続性をもった音をあえて吸収、遮断することに着目した事例である。木材の積層による壁で空間全体を構成している。隙間をあけて積層させる事で吸音性の高い空間が設計され、外部の音を一定遮断するとともに、内部にアコースティックな音響空間を確保している。また、廊下状の隙間を設けることで自由な動線が生まれている。聴覚と人の動きによって内部と外部の分節と連続を意図した設計である。京都にある「相国寺」の法堂は音による空間の位置づけに着目した事例である。強く手を叩くと響きが長く残る現象から「鳴き龍」と言われる残響の効果で知られる。この響きは天井と床などの二つの平面が平行した空間で発生した音が、平面の間を何度も往復し反射することによって生まれる。微妙な音の重なりが生じる一点が存在している。加えて一方の面が少し湾曲していることがさらにこの効果を助長している。この事例は音による空間認識の手法を提示している。以上のことを踏まえ、本研究では、音による空間の生成や認識に着目し、音を主題とする建築空間を計画案として提示することを目的とする。独立した空間をもつのではなく、各要素に聴覚的作用を利用した空間を提示する。それは外部環境と連続的な関係にあるものである。人々がこの空間の中を散策し、立ち止まり、腰をかけ、音とのつながりの中に自分が存在していることを自覚することを意図した。