設計趣旨
「時間とは何か。」多くの先人たちがこの問題に向き合い、様々な考察と議論を重ねてきた。 ニュートンはそれを外的な事物とは無関係にそれ自体で一定に流れる「絶対的」なものであると定義した。対して時間とはそれぞれの基準点によって速度が変化する「相対的」なものであると主張したのはアインシュタインである。またベルクソンは時間を「持続」と呼び、バシュラールは「瞬間」の連続であると主張した。互いに矛盾する主張である。そもそもこの問い自体が取り留めのないことなのかもしれない。カントは時間と空間はア・プリオリ、つまり経験的認識に先立って認識される概念であると言った。この場合、問いに対する真理を我々が見つけることは不可能である。なぜなら時間と空間を認識することが出来ない以上、我々はそこでは何の物体をも認識することが出来ないからである。そしてこれもまた単なる仮説でしかない。 しかしこのように論理だけでは収まりきらない未知数の部分への好奇心こそが、多くの先人たちを時間の概念の考察へと駆り立てたのではないかと感じる。真理を掴むことが永遠に不可能だとしても、だからこそ様々な学問において時間に対する新しい考察が次々と生まれてきたこと、現在もなお生まれ続けていることは興味深く、また意義のあることと感じる。
以上をふまえ本研究では、卒業研究を発展させ〈時間〉〈建築〉〈自然〉の3つの要素の関係性について考察し、時間を主題とした建築空間を提示することを目的とする。
諸芸術や文学における時間表現や理論を引用しながら5つの時間の性質を分析し、それぞれをひとつの章として分類した。各章に2ないし4の建築を提示し、全体として13の建築で構成している。