設計趣旨
枝が蔓延り雨跡が伝い、砂が吹込み陽にさらされ、建築はその姿を留めておくことは出来ない。当たり前のことではあるが、すべての建築は時間を紡ぎ出している。時間がその連続性を失い、ただ断片的な存在として認識されてしまいがちとなったこの目まぐるしい現代社会において、いま一度、改めて時間の連続性を感じ取ることのできる建築、時間の建築をつくろうと考えた。
本計画では、時間の連続性を感じさせる最も身近な要素として「自然の変化」に着目した。そこから7つの要素(太陽と月の軌道、潮の満ち干き、水の流れ、風の流れ、樹木の生長、波のゆらめき、建築それ自体の素材の経年変化)を抽出し、それらの魅力を体感するための5つのパヴィリオンを設計した。浜、川、森、海、丘の5つの場所に建つこのパヴィリオンは、自然そのものを展示の対象とし、その変化を体感する場としての時間美術館である。 豊かな自然環境に恵まれた敷地内に5つのパヴィリオンを点在させ、それら5つを含めて、ひとつの回遊式美術館とする。既存の遊歩道が各パヴィリオン間のアクセスを繋いでいる。 訪れた人がこの建築を通して刻々と変化する自然の様相を知覚し、連続した時間を再認識することを意図している。そしてそのことが、時間の流れのなかで同じく連続して存在する自分自身と向き合い、自らのアイデンティティを確かにするきっかけとなることを期待する。