修了生+卒業生>向井雄一



修士研究(作品) トポグラフィと建築/斜面地の特性を活かした建築空間の設計

設計趣旨
 建築は地面の上に建ち、地面と無関係に存在することはできない。水上施設や宇宙基地は例外としても、建築は重力の影響から地形との関係を必ず持ち、故に全ての建築には場所による固有性や地域性が生じる。 建築にとって基本的な要素である場所性や身体性を獲得し、固有性の高い建築を創出する手段として、トポグラフィという要素に着目した。 本研究では、トポグラフィという言葉を「地形」という意味で用いる。斜面や丘陵地のような自然の地形を主な対象とするが、盛土などの人為的な操作によってできる地形も対象に含め、建築とトポグラフィの関係について考察を進めていく。 建築と地面は重力によって繋がっており、それらは切り離すことができない。床を水平に保ち、柱で支え、階段で各階をつなぐというように、建築は重力によってその形が決定または制限されている。重力に対する挑戦として人は山を登り、超高層建築を建設するともいえるだろう。重力との関係は近代建築の中にも見られる。ル・コルビュジェの近代建築の5原則では、ピロティによって建築を地面との関係から解放しようと試みられている。ピロティの存在は、場所性の排除とは別に、敷地内の地形をそのまま残すことができるという側面を持っているといえる。建築を地面に埋める、建築の屋根面などを地面と一体化させる、斜面の傾斜に合わせてボリュームを配置するというように、地面と建築とを積極的に結びつけて計画することは、山や谷が多い日本においては1つの有用な手段であると考える。環境への配慮や景観形成に対する人々の関心は高まっており、建築を積極的に地面に結びつけている建築が近年現れてきていることから、本研究ではそのような設計をさらに追求し、デザイン手法のひとつとして確立したいと考える。 公共建築は、規模が大きいことから周囲との関係性を持たせにくく、景観を壊しかねないという問題がつきまとう。施工技術の発展の裏側で、起伏に富んだ自然地形が必要以上に破壊され、喪失してきた過去がある。トポグラフィを建築表現の中で一体的に捉えることは、安易に水平な人工環境を獲得してきた問題に対する1つの解答となりうるだろう。また、その建築の外形は地形とともに風景として一体化できるような、単純な箱型に留まらない表情豊かなものとなるだろう。そして、それによって生じる内部空間の構成もこれまでにないものになっていくと考えられる。 本研究ではトポグラフィと建築を結びつけることによってできる建築の設計手法について考察を進め、具体案を提示することを目的とする。