修了生+卒業生>中村咲子



卒業研究(作品) ヌケとカゲ/琵琶湖岸の学びの場

設計趣旨
 古来より人間はその土地の気象条件、文化、生活様式に基づいて建築をつくってきた。異なる地で、異なる文化を形成し、異なる生活様式をつくり、建築に個性を生み出した。それは例えば建築に関わる空間への考え方や、自然との関係性であり、日本においてもそれは存在する。にもかかわらず、現代の日本の多くの地域ではもはやそういったものの気配は感じられなくなっていると筆者は考える。技術の進歩による新しい建材、生活様式の変化などに伴い、新しくつくられていく建築の多くは均質化され、安価で、耐久性も良く、種類も豊富になった建材は日本全国に流通し、それを使用した建築が建てられていく。そうして現代の建築は、日本古来の個性をもたないものに変貌してきてしまっている。高度な科学技術によって、厳しい気象条件に耐え、さらに様々な要求に対応する建築をつくることが可能になったことで建築そのものの多様性はさらに広がったが、その代償として日本がかつて持っていた建築に関する固有の個性のほとんどは失われていったのである。
 こうした背景から本研究では、日本の伝統的な建築や空間の捉え方をふまえつつ、それを踏襲しながらも現代の手法を用いた建築を計画することを主題とする。日本の伝統的な建築が持つ要素をいくつか抽出し、それを現代に合うようなかたちにする。決して現代の素材や工法を否定するのではなく、伝統的要素との共存を目指す。本研究では、伝統的建築の持つ多くの要素の中から「抜け感」と「陰影」の2点について着目した。抜け感は、柱や建具が作り出す。柱の建築といわれ、壁は少なく、建具等で部屋を間仕切ることの多い日本建築においては、部屋の独立性は低く、開放的な空間が特徴としてあげられる。こうした空間構成と、それによって得られる効果や印象について、本研究では「ヌケ」と表現することとする。また日本の屋根は古来より大きく、そして軒が深いことが特徴のひとつであった。それは雨や日差しに対する配慮であり、わが国における木造建築の様式的な特徴である。深い軒は建物全体に大きな影を落とす。影は季節や時間によって形状や濃淡の変化を生み、その空間に様々な表情を生み出す。本研究ではこうした屋根によってできる陰影と、その陰影が作り出す空間を総称して「カゲ」と表現する。
 本研究の特徴は、日本建築の伝統的要素からヌケとカゲをテーマとして抽出したところにあり、次に挙げる先行事例などを参照し、現代のデザイン手法によって学習施設の設計をおこなう。