修了生+卒業生>西村大輔



修士研究(作品) リノヴェーションの設計手法/武田五一の住宅を題材として

設計趣旨
 リノヴェーション(Renovation)とは古い建物・絵画等の修理、復元、刷新、回復等、広い意味を持つ言葉である。建築に関するものだけ取り上げてみても構造や設備に対するものから、意匠や素材に対するもの等その規模や目的は多種多様である。欧米においても歴史的建造物の用途転用が盛んに行なわれているほか、我が国では1990年代後半より急速に注目を集めはじめ、廃業した銀行や小学校が商業施設や、地域センターなどに転用されるケースが見られる。リノヴェーションの意義として「既存施設の再活性化」、「文化的ストック蓄積の機会の提供」等が指摘されているほか、新築に比べ経済的である場合がある点も近年注目されている。また、建築界においては新たな創造の手法としても注目されている。対象としては校舎や倉庫等の建築物から、廃坑やトンネル等の非建築物にまで及んでいる。また、リノヴェーション建築そのものの探訪・紹介文献も出版される等、現在は広く人口に膾炙しつつある概念であると言える。事例としては、既存施設を完全に残した「旧日本銀行京都支店」(1986年改修)の博物館(京都府京都文化博物館)への転用がある。三条通の情緒の中に、建築全体が歴史的景観の一部として影響を与えている。スイスに現存するピーター・ズントー設計の「グガルンハウス」では、山で農業を営む一家の住居(居間の部分は1706年から存在)が現代的生活に対応するよう1994年にリノヴェーションされた。この地方の古典的な配置計画を軸に既存の校倉造の建築に編み足されるように新旧の建築が溶け合わされている事例である。また「旧朝香宮邸」(1983年改修)は、建築自体が美術品として扱われる美術館(東京都庭園美術館)として転用されている。さらに海外の事例として「旧バスティーユ支線1989年改修)の改修では、軌道・高架下空間の用途転用がされおり、既存の都市インフラ再生の先駆けとして評価を得ている。このように、リノヴェーションのあり方は、用途や規模など様々であり、全てを一括りに扱うことは出来ない。そこで本研究では、「歴史的資産・文化的資産としての住宅の保存・再生を目的としたリノヴェーション」を取り扱うものとする。題材として、明治大正期の建築家として著名な武田五一設計の住宅『小川邸』を用い、リノヴェーションの設計手法の一端として具体的な設計提案としてまとめたい。