設計趣旨
使い込まれた道具、すり減った壁や床、錆びたトタンの小屋…。これらは普段何気なく目にする、ごくありふれたものである。しかしそこに何ともいえない美しさを私は感じる。ここで感じられる美しさは時とともに与えられた美しさである。文化としての建築の美しさや価値もまた、時の流れのなかで築きあげられてきたものだ。しかし、こういった美しさを持ち得るものは少ない。
古くなる、時を経てもなお美しいもの、あるいはその美しさを増すものとはどういったものか。その答えとしてひとつ言えることは、健康なものであるということではなかろうか。あるものを成すひとつひとつの流れが、大きなひとつの流れを造り出すとき、そのものは健康であると言える。素材を活かすー素材のもつはたらきや美しさを引き出せる状況をつくるーことによって、本来あるべき流れのなかに身をおき、美しさを増していく、そんな建築を提案したいと考えた。
鉄、土、竹、木、石の5つの美術館。これらの自然素材を体現する建築そのもの、光・風・雨などといった自然の要素によって造り出される空間、時を経て土へと還っていく過程がこの美術館における展示物である。素材そのものがもつ美しさ、自然が造り出す美しさ、時が造り出す美しさ。この建築がこれらの美しさを持ち得るものであることを期待する。