設計趣旨
人は自己領域を見いだしながら生きている。 人が交わる場所には領域の重なり、あるいは衝突、または分かち合いが存在する。 曖昧だが自己実存にとって不可欠なこの領域を 人が交わる場所―建築空間において視覚化する。本計画では、明確な領域を持つ建築物に劇的な空間構成の転換を与える手法として「可動空間」を取り入れ、静寂と能動、閉鎖と開放、柔と剛のように、相反する要素の空間を一つの建築物の中で両立させるという実験的提案を行う。
強固な直方体の建物は、人の手によって可動し,形状は瓦解していく。 緩められた空間の質は人の視線や歩みを促す。 生まれた空白は新たな動線となり無関係だった空間同士を結びつける。 広がることで、 光や風を帯びていき、最終的には小さな無数の箱へと変化を遂げる、市民のためのアート空間である。 自ら過ごす場所を主体的に選び、出会う相手と分かち合う。箱を分離・拡散させることによって徐々に用途は失われ、また新たに生み出されていく。 人の思いに合わせて有機的に変わり続ける建築を模索する。
本来ならば動くはずのない駆体が可動することで、緊張感のある幾何形態の建物をばらし、周辺の空白(void)を多彩に創出する。同じ建築物であるのにもかかわらず、体感は一様ではなく、あらゆることが変化する可能性を帯びている。見える風景や風の流れ、降り注ぐ光りの量、室と室との結びつきとシークエンス。人々が訪れるたびに、感性や意識に新たな働きかけを与えられる場を理想とする。そこにある空間をただ受容するだけではなく、目的や意志によって自らが領域を導き出せるということが特徴であり意義である。