設計趣旨
日本には〈奥〉の概念が存在する。古くは弥生時代に、山は通常、人の行動圏に入らない山中他界の思想が確立したことから始まり、山を背に田園や家屋群が里を構成するという、日本の村落の原型が〈奥〉を創り出したのではないかとされている。その思想は時代の変遷をたどりながらも、日本人の空間意識の根底に深く根ざし、日本人が設計した多くの建築物に、その考えを感じとることができる。現在でも建築家の槇文彦をはじめとして、この〈奥〉に関する研究や設計がなされている。そして、様々な見解や考察があげられている中、本研究でもこの奥性について着目し、分析、考察をしたいと考えた。その中でも、あまり研究がなされていない、垂直方向性の奥性に着目し、この特性を新しい空間言語「深性」として提示したいと考えた。 本研究は、日本特有の空間概念である奥性を考察し、垂直方向への可能性として「深性」という新しい空間言語としての奥性を見出すとともに、これら特性を主題とした建築設計案を提示することで、新しい設計手法を導くことを目的とする。