設計趣旨
建築を考えることは、同時に自然を考えることである。建築は、人間が厳しい自然から身を保護するための手段として構築される人工物である。風雨や外敵などの脅威から身を守るといった建築の根本的な役割は、外部環境としての自然との対峙的な立場を表している。建築という人工と外部環境という自然は、二項対立の関係にあるということができる。一方で、人間は自然の恩恵を享受して暮らしている。生物である人間の生活から、自然を切り離すことができないことは自明である。人間の生活を豊かにする建築とは、自然を遮断するものではなく、自然との良好な関係を築くための手段となるものであるといえる。すなわち言い換えると、建築と自然のジレンマ的な二項対立を解消することが、建築空間を設計する際の一つの命題であり意義であるといえる。近代建築では、ミース・ファン・デル・ローエのバルセロナ・パヴィリオンにその絶頂が見られるように、建築という内部と自然という外部の二項の連続性を獲得すべく考えられた、流れるような空間が強調されてきた。水平スラブと柱、最小限の壁とガラスで構成されたワンルームの空間を基本構成とする。上下の水平なスラブは、内部空間と外部空間をフラットにつなぎ、内外が連なった一体のものであるかのように感じさせる。現代建築では、1995年にニューヨーク近代美術館で開催された「ライト・コンストラクション」展にその潮流の一つが見られるように、軽さと透明性をキーワードとして展開される。建築の物理的な意味合いが薄れることでより自然と等価に近づく。建築が姿を消し、透明な箱となることで、建築と自然の二項対立を解消していると捉えられる。