修了生+卒業生>山本裕生



卒業研究(作品) 輪の学校/人とまちのつながりを主題とした小学校の設計

設計趣旨
 学校とは、人間が生きていくうえで大切なものを学ぶところである。それは読み書きや計算といった学問はもちろん、他人を思いやる気持ちや集団行動の大切さなどを学ぶところでもある。授業も、部活も、掃除も、給食も、学校の中で行われるすべてのことが子供たちへの教育の一環である。このような学校で行われる教育が、日常生活のほとんどを学校と自宅で過ごす児童期(小学生)から青年期(成人まで)の子供たちにとって大きな影響を与えるのは言うまでもないことだろう。
 また、従来学校という空間は、学校に通う生徒はもちろん、地域住民も利用できる開かれたところであった。学校は、子供たちにとっては学び舎であると同時に格好の遊び場であり、地域住民にとっては互いの交流を深める空間でもあった。このように、学校とは単なる教育機関という枠組みをこえて、地域社会の中心的な存在であった。
 だが現在、学校のあり方が大きく変化しつつある。その転機となった事柄のひとつに大阪教育大学付属池田小学校で起きた殺傷事件がある。この事件以降、多くの学校は部外者の学校施設内の立ち入りを厳しく規制するようになり、地域に対し開かれていた学校は次第に安全対策重視の閉ざされた学校へと変化してきた。
 しかし、学校を外部から切り離し、外部からの危険を退けても、学校が抱える問題は外部から持ち込まれるものだけではない。教師による生徒への暴行や生徒間のいじめ、学級崩壊など内部で抱える問題も無視できるものではない。さらにゆとり教育による子供たちの学力低下を受けて、子供たちを塾へ向かわせる親が増えた。こうして、今や学校という空間自体の安全性だけでなく、学校で行われている教育にも懸念が生まれ、学校の存在意義はますます希薄になってしまった。
これらの様々な事柄によって、学校という場所は見直しを迫られてきている。そこで本計画では、学校と教育のあり方を見直し、地域社会との関わりを考慮しつつ学校という空間とそこで行われる教育の再構築を行い、新しい学校のあり方を提示することを目的とする。ここでいう教育とは、前にも述べたとおり、ただ勉強をするだけということではない。学校での経験や思考、人間関係など全てが子供たちにとって人生の糧となる可能性があり、やがてそれらが実を結ぶときにはじめて本人が意味を理解する。このような長い時間のプロセスこそが教育であり、その教育の足がかりとなるのが学校という舞台であるはずである。この考えをもとに、子供たちの人間としての成長を促す教育のための空間を計画する。