研究概要

自己集合の枠の外に新たな超分子構造を見出す

超分子化学では, その黎明期から現在に至るまで, 分子の自己集合を巧みに利用して, 実に多彩な超分子構造の創製がなされてきました。しかし, 超分子形成をこの分子の自発的な集合過程に全て委ねる限り, 自己集合で規定された枠の外に超分子構造を見出すことはできません。もしこの自己集合過程を分子任せにはせずに, 集まる分子に何らかの作用を外から加え続けることができれば, 従来超分子形成が困難であった分子同士を自在に組み合わせ, そこから新たな超分子構造が創出できるかもしれません。

溶液を小さくして一定方向に動かすと, 分子は方向性を持って結合する

我々はマクロな世界の力を効率的に分子間の結合エネルギーへと変換し, ナノメートルの秩序構造を生み出す方法を探究してきました。最近, 溶液の規則的な運動, つまり流体が持つ流れの力を分子の結合力に変換できることが明らかとなってきました。これはマクロな世界の粗雑な力が, 微小溶液の運動を介して, 分子レベルで有効な精密な力に変換できることを意味します。微小な溶液の運動はエネルギーの変換装置として働きます。こうして分子へと伝わる力は, 化学反応を起こすには弱すぎますが, 共有結合より一桁小さい非共有結合を生み出すことは十分に可能だと考えられます。

マイクロフロー空間:“弱い結合を生み出す触媒”

マイクロメートルまで小さくした溶液の中では, 流れる速度に差が生じ, 溶液内部では常に摩擦による熱が発生します。溶液を小さくして動かすと, 分子の運動を激しくする衝突効果, 超分子の成長末端の方向を固定化する立体効果, この2つの効果を分子レベルでもたらします。

マイクロ流体は超分子形成を著しく促進する一種の“触媒”です。これまで組み合わせが困難とされてきた様々なイオン・分子・高分子を自在に組み合わせて, 超分子構造が存在する枠組みそのものを拡張することに挑戦しています。

マイクロフロー空間内での溶液混合

マイクロチャンネルを適切に設計すると, 溶液内の組成を反映したまま, 通常は会合し合わない2種類の分子を1つの超分子構造の中に取り込むことも可能になりました。分子から超分子への変換が流れに沿って一様に進行するため, 超分子の大きさはどれも均一になることが明らかとなっています。

時空間制御:流れた距離が反応時間になる

一般的なフロー溶液では, 反応時間を流通距離で制御できます。反応の進行に伴う構造変化は全て空間で理解・制御できます。

時空間制御のコンセプトと局所分光技術を組み合わせると, 超分子形成過程を正確に追跡することができます。例えば, 一般的な超分子重合の場合は, 蛍光分光法との組み合わせにより, 反応が数ms(ミリ秒)で完了することを明らかとしています。また, 直線偏光を用いた局所分光測定により, 超分子ポリマーが配向しながら成長していることを初めて明らかとしています。原理的にはあらゆる分光測定を組み合わせることが可能です。

ナノの化学工場:“溶液の形”に徹底的にこだわる化学

マイクロ流体デバイスはミクロな流れを作り出す装置です。目的の超分子を高効率かつ選択的に創製するための独自のマイクロチャンネルをこれまで数多くデザインしてきました。こうしたノウハウを活用して, 超分子構造に合わせたマイクロチャンネルがテイラーメイドに設計できるようになってきています。

例えば, 上流部で2種類の分子を共会合させた後, 未反応の分子と目的の超分子構造を下流部で分離することも可能です。超分子化学を専門としない研究者でも, 複雑な超分子構造を再現よく確実に作り出せるのが, マイクロ流体デバイスを用いる強みです。将来は, 原料素材をインジェクションするのみで, 目的とする複雑な超構造を必要なタイミングで, 必要量だけ, 確実に創出する, 実践的なマイクロ超分子プラントの開発に結びつけます。

Numata Laboratory

京都府立大学大学院 生命環境科学研究科
超分子合成化学 研究室