大勢の方々に参加していただき、盛会のうちに終了いたしました。ご参加いただきました皆様、ご協力いただきました関係者の皆様に深く感謝申し上げます。こちらに当日の様子をアップいたしました。
日時:2016年2月13日(土)13:00 - 17:00
会場:京都府立大学 教養教育共同化施設 稲盛記念会館 一階103号講義室
我々の衣・食・住の全てに関わる天然素材「ラック」の正体とは?
ラックカイガラムシが分泌する樹脂状物質「ラック」。年代が判明している世界最古のスティックラックである「紫鑛(しこう)」が正倉院に収蔵されているのをはじめ、近年、高松塚古墳、正倉院宝物などにもラック由来色素「臙脂(えんじ)」の使用が確認されている。しかし、日本ではラックカイガラムシが生育しないことから、その実体はほとんど知られていない。この講演会では、ラックの産地の様子とその利用、現物資料の展示により、再生可能天然素材であるラックの情報を共有し、現代での新たな展開を目指す。
<基調講演>
『あなたはカイガラムシを食べている』 渡辺 弘之
食品の表示をみれば、すぐに着色料あるいは光沢剤に「ラック(シェラック)」の表示をみつける。ニス(ワニス)、ガムテープ(粘着テープ)などにも使われている。これらが熱帯アジアのラックカイガラムシからの産物だ。インド、タイ、インドネシアでのラックの生産実情とその利用、私たちの生活との係わりについて述べる。
<報 告>
『中国とその周辺におけるラック』 沓名 弘美
演者の研究テーマの綿臙脂の再現には、主原料であるラックについて、文化、科学、実技にわたり知見を深める事は必須であった。その経過から、中国、ブータン、インドでの実地調査、古籍を中心とした研究に基づいて、歴史と文化を軸に、日本を含めた中国とその周辺におけるラックと人々との関わりについて述べる。
『ブータンのラック養殖とラックの利用について~ラック染色の技法を中心に~』 久保 淳子
古くから重要な交易品としてチベットに運ばれたラックが、ブータン社会の中で様々に利用されている例を紹介する。ラックの色は身分の高い人だけが身に着けることが許される正装用スカーフに用いられるなどブータンの染織品・社会の中で重要な役割を果たしている。ラックの染色技法を中心に、染色以外の利用法、養殖産地の現状を報告します。
『インドのラック研究とラックの加工』 北川 美穂
世界最大のラック生産地であるインドは、ラック養殖と加工を重要な輸出産業のひとつとしている。1924年にイギリスとアメリカの協力により設立されたインド・ラック研究所は、2007年にインド天然樹脂研究所と名前を変えたが、引き続き活動の中心はラックであり、広大な実験農場を使っての実験や種の保存が行われている。虫の生態、養殖から加工までのシステム、他国にはない利用方法などを含め紹介する。
※ ラックの現物、製品、工芸品の展示、解説ポスターの掲示も行います※
<講演者略歴>
渡辺 弘之(わたなべ・ひろゆき)
京都大学名誉教授(森林科学専攻)。農学博士。日本土壌動物学会会長(1996~2000、2004~2008)日本環境動物昆虫学会副会長(2000~2004)など歴任、現在、社叢学会副理事長、バイオマス産業社会ネットワーク理事、京都園芸倶楽部会長、ミミズ研究談話会会長など。インド、タイ、インドネシア、ラオスなどのラックの産地を調査し「カイガラムシが熱帯林を救う」(東海大学出版会、2003)他に執筆。
沓名 弘美(くつな・ひろみ)
画家、絵画材料研究家。綿臙脂の再現、書画紙、線描等の絵画技法材料研究も行う。東京藝術大学大学院文化財保存学専攻(日本画)修了。四川大学(漢語)、中国美術学院(花鳥画)へ留学。カム、アムドへの旅行(2005, 2006)。中国雲南省調査(2009)。ブータンでの染色実習および調査(2010)。中国薬種調査、インド調査(2012)。
久保 淳子(くぼ・あつこ)
ブータンゆっくり勉強会「ヤクランド」主宰。大阪外国語大学デンマーク語学科卒業。旅行会社の添乗員として初めてブータンを訪問。首都ティンプーに2年間滞在後、「ヤクランド」を立ち上げ、ブータンの文化と自然にふれるオリジナルツアーを企画する傍ら、ブータンの伝統染色技法と染料植物を調査、国内各地でラック、アカネ等の染色ワークショップ、染織品展示会を開催している。
北川 美穂(きたがわ・みほ)
工藝素材研究所主宰、保存修復家、工芸素材研究家、京都府立大学共同研究員。東京芸術大学大学院漆芸専攻文化財保存学専攻(工芸)修了。文化財博士。1999年よりイギリスで疑似漆技法ジャパニング技法の復元研究を行う過程から塗料としてのラックの研究を開始する。世界各国のラック製品と文献、ラックカイガラムシの生態と寄生樹の調査、ラックを用いた様々な実験を行っている。