京都府立大学府立植物園連携プロジェクト バーチャル植物園

植物って楽しいな

  1. 「サギソウをもっと知ろう」
  2. 「植物園の鳥たち」
  3. 『府立植物園で見る、植物の生き抜く戦略』
  4. 「京都盆地周辺におけるシイ林の拡大」
  5. 「チョウの標本箱"桝武男コレクション"から見る京都府の自然環境と植生変化」

「サギソウをもっと知ろう」

京都府立大学 生命環境科学研究科 武田征士

サギソウは日本に自生する野生ランの一種で、シラサギが羽ばたいているような、とても美しい花びら(花弁)をつけます。その美しさから「清純」「繊細」「夢でもあなたを想う」という花言葉をもっています。

湿地に生える野草で、かつては多く見られたのですが、宅地開発による湿地減少や愛好家による乱獲などによって姿を消しつつあり、レッドデータブックでは「準絶滅危惧種」に指定されています。

日本の自然の美しさを象徴するようなサギソウを絶滅から守るため、京都府南部を中心に保全活動を進めています。大学研究室では、自生種を殖やすための種子繁殖・栽培・培養法を確立すると共に、美しい花弁をつくる仕組みを調べています。

サギゾウ

「植物園の鳥たち」

京都府立大学大学院 生命環境科学研究科 ランドスケープ学研究室
京都学・歴彩館(京都学研究部門)兼任
福井亘

植物園の鳥たち 植物園の鳥たち

『府立植物園で見る、植物の生き抜く戦略』

京都府立大学 生命環境科学研究科 森林植生学研究室 松谷茂

ハンカチノキ

Davidia involucrate
ミズキ科(旧ハンカチノキ科)

フランス人宣教師でナチュラリストでもあったダヴィッド神父(1826-1900)は1869年、中国の四川省宝興の森林(標高2000m)でジャイアントパンダなどとともにハンカチノキを発見。ハンカチノキは植物界のパンダ、と言われるほど珍しい樹木である。
英名ではhandkerchief tree 、中国名の「鳩子樹」は英名ではdove tree 。どちらも風に揺れる花の様をあらわし、言い得て妙。

1個の花のように見える花序は、ピンポン玉のような形の頭状花序(とうじょうかじょ)で、互生葉のつけ根から出る長い花軸の先に大小二枚の苞(ほう)に守られるように下向きに花を咲かせる(写真- 101)。
開花初期はまだ花軸が短いので花は上向きに開くが、びっしりと詰まった雄しべ(葯の色は紫褐色から乳白色まで変異がある)の中から、黄緑色の雌しべが一本ピッと出ている姿が印象的。(写真- 102)
 開花中期に入り花軸が伸び出すと花序は横から下向きになり、雄しべの伸びた白色の花糸が突出する(写真- 103)。
満開を迎えた花には、コバエなどが集まっているので鼻を花に近づけると、わずかにコバエの好きそうな異臭が!
 後期、雄しべが落ちると雌しべの下部についている子房の緑色が際立ち、果実になる準備が整いつつあることがわかる。(写真- 104)
開花直後の苞の色は葉と同じく淡緑色(写真-105)なので注意しないと開花を見落とすほどだが、数日経つと白くなり、その様はまさに白いハンカチに大変身(写真-106)。
大小二枚の苞(写真-107)には、有害な紫外線を吸収する物質があることが最近の研究でわかってきた。紫外線の強い高山での生き抜く戦略の一つ、と言ってしまえばそれまでだが、種の命を守り続けるDNAにただただ驚きと感激!

  • 写真101
    写真101
  • 写真102
    写真102
  • 写真103
    写真103
  • 写真104
    写真104
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    写真105
  • 写真106
    写真106
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    写真107

果実

ミニミニラグビーボール形の果実は、冬芽のつけ根から出る長さ10cmほどの果柄の先に下垂し、はじめは緑色をしているが(写真-108)、秋に熟すと表面に粒状模様の入る茶褐色となり(写真-109)、年を越してから落果。
 基部には多数の雄しべの痕跡が残る膨らみがある(写真-110)。果実の中には縦方向に何本もの溝のある硬い核(写真-111)があって、その中に3~6個の種子が入っている(写真-112)。
この種子、形態がクルミとよく似ているので食べたところ、味はクルミそっくり、脂肪分が多いのではないかと推察。世界的にも食べた人はまだ少ないはず。

  • 写真108
    写真108
  • 写真109
    写真109
  • 写真110
    写真110
  • 写真111
    写真111
  • 写真112
    写真112

 長い葉柄の先につく葉は幅広の卵形で基部はハート形、縁には短く尖った鋸歯(きょし)が明瞭で、葉表は濃く鮮やかな緑色、葉脈は凹んでいる(写真-113)。葉裏は白い軟毛で覆われフェルト状になり、葉脈はしっかりと隆起(写真-114)。

  • 写真113
    写真113
  • 写真114
    写真114

ツガ

Tsuga sieboldii
マツ科

 福島県から四国・九州の山地にモミとよく混生する針葉樹。現地では樹高が20mにもなるため、花や球果(きゅうか=松ぼっくり)をじっくり観察することはふつう困難。
 裸子植物の受粉戦略は、風。被子植物のように美しい花を咲かせ昆虫などをおびき寄せることはないが、結実後にできる球果の形が意外とかわいく見える。
 京都府立植物園には、花や果実を目線の高さでじっくりと観察できる個体がある。(写真-1)

  • 写真1
    写真1

花と球果

 ツガは雌雄同株、雌雄異花。一本の木に雌花と雄花が別々につき、春に咲いた雌花が受粉し結実すると、その年の秋に熟した球果の中から種子が飛び出て種子散布。
 雄花は、枝の先端から伸びる細く湾曲した短い柄の先に、釣鐘形をして付いているが馴染みのない花だが、その表面には不規則に分割した葯(やく)がびっしりつき4月中から後半、花粉を放出する(写真-2)。風媒花。
 雌花は、枝の先端に生まれ出たときから早くも球果の形をして赤紫色を帯びる(写真-3)。
 雄花と雌花が同時に見られる期間は短く(写真-4)5月初旬、雄花は早くも落花し、雌花のみが樹上で成長を続ける。
 球果は、短い花柄が下向きに曲がって下垂する大きな特徴(下向きに曲がらないコメツガとの区別点)があり(写真-5)、成長とともに色が変化。春の白っぽく明るい緑(写真-6)から夏には濃い緑へ、秋になると茶色が混じりはじめ(写真-7)、晩秋、茶褐色になるとそれは完熟したサイン。(写真-8)

  • 写真2
    写真2
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    写真3
  • 写真4
    写真4
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    写真5
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    写真6
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    写真7
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    写真8

種子

 球果の外側を覆っている瓦を重ねたような種鱗(写真-9)の鱗片(写真-10)の基部に、小さな種子が2個ずつ入っている。
 種子には翼が付き(写真-11)、熟した球果から飛び出ると風に乗って飛散、親株から離れた新天地で繁殖する。風散布。
 発芽した芽生えの姿は、かわいく必見(写真-12)。

  • 写真9
    写真9
  • 写真10
    写真10
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    写真11
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    写真12

 針葉樹だが、針のような葉ではなく扁平な線形で、長さは1~2cmと短く、葉の長さは不揃い(写真-13)、また短い葉柄は枝に接して枝先方向に短く伸びたあと、枝に対してほぼ直角に葉をつける(写真-14)。その葉の先端は少し凹む(写真-15)。
 葉の裏にある二本の白い線はガス交換を行う気孔帯、主成分は樹脂のワックスでよく目立ちます(写真-16)。

  • 写真13
    写真13
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    写真14
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    写真15
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    写真16

フォティニア(ストランバエシア) ダヴィディアナ

Photinia(Stranbaesia) davidiana
バラ科

 中国原産の常緑広葉樹で樹高は2~3mの中低木、主幹はなく株元から幹が何本も伸びあがるので、全体としての株姿は扇形のようになる。
 国内ではまだ珍しく、ほとんど見る機会はないが、春の花と秋の真っ赤な果実は美しく、必見。
京都府立大学の樹木園にも植栽・展示。
一年間、特に花の観察を続けると、その状態が劇的に変化していく様子がよくわかる。

葉の展開、つぼみと花、果実

 厳寒期の2月、前年に熟した果実は落果したか鳥に食べられたかですべてなくなり、それまでその先についていた赤っぽい果柄が残る(写真-A)。葉の付け根には充実した赤っぽい新芽がつき、気温の上がる春を待っている。(写真-17)
 3月後半、新芽の中からやや赤っぽい(この時点ではまだ葉緑素が合成されていない)新しい葉(写真-B)が伸びはじめると、4月中旬、新葉の内側から葉に守られるように花芽が形成(写真-18)。
その後、花芽の付いた花序が伸びはじめ、緑色のつぼみらしき姿が現れる(写真-19)頃、新葉はさらに成長し、太陽光を効率よく受けるために水平方向に展開(写真-20)。
 5月に入って花序枝を伸ばしはじめると、つぼみも成長、白色のつぼみと淡緑色の萼片がはっきりと見えてくる(写真-5 )。
葉も淡い白みがかった緑色に変わり、表面の主脈は赤っぽくよく目立つ(写真-21)。
 5月後半開花。
白色の花びらは5枚つき、一枚一枚はお椀型、開花直後の雄しべの先に付く葯(やく)は淡紫色でやや目立つ(写真-22)。
 昆虫が盛んに訪れることから虫媒花であることがわかる(写真-23)。
 花が終わると子房が発達し果実形成の初期段階に入るが、その先端には茶褐色の雌しべがしばらくの間残存(写真-24)。
 9月、果実は依然緑色のままで球形に膨張(写真-25)。
 10月、果実はオレンジ色を帯びるようになり(写真-26)、11月に入ると赤っぽさがプラス(写真-27)、寒さが厳しくなる12月には深紅に変化、特に太陽光に反射した果実は、美しく輝き絶品(写真-28)。
 果実のお尻にある5個の凹み(写真-29)は、萼片(がくへん)の名残りで、これはリンゴにも見られ、リンゴと同じリンゴ属に属していることに納得。食してもうまくないっ!

  • 写真A
    写真A
  • 写真17
    写真17
  • 写真B
    写真B
  • 写真18
    写真18
  • 写真19
    写真19
  • 写真20
    写真20
  • 写真21
    写真21
  • 写真22
    写真22
  • 写真23
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  • 写真24
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  • 写真25
    写真25
  • 写真26
    写真26
  • 写真27
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  • 写真28
    写真28
  • 写真29
    写真29

 常緑樹なので葉は一年をとおして見かけ上着葉しているが、同じ葉が何年もついているのではなく、春に生まれた葉は翌春落葉し、新しい葉と交代。
落葉直前の葉は、秋のカエデなどの落葉樹で見られるのと同じメカニズムで紅葉する(写真-30)。 
 葉の縁は波状鋸歯(写真-31)、葉脈はあまり明瞭ではない(写真- 32)。

  • 写真30
    写真30
  • 写真31
    写真31
  • 写真32
    写真32

「京都盆地周辺におけるシイ林の拡大」

京都府立大学 生命環境科学研究科 森林植生学研究室 平山貴美子

京都盆地周辺におけるシイ林の拡大

「チョウの標本箱"桝武男コレクション"から見る京都府の自然環境と植生変化」

京都府立大学 生命環境科学研究科 応用昆虫学研究室 中尾史郎

 京都府与謝野町に在住していた故 桝 武男氏の国内産のチョウのコレクションは90箱140種1500点余りが現存し、展示学習などに活用することが望まれていました。このうち、氏が手がけた標本24種360点余りを2016年11月から京都府立大学に保管することにしました。京都府北部産の約270点を検討し、1970年頃からの約30年間の各採集場所のチョウ相や植生の変化を示す貴重な証拠標本を整理します。これらの標本は学習資材として活用するほか、府下の類似コレクションによる情報集積、共有と利活用についての課題を抽出するプロトタイプとしての利用が期待されます。今回、桝 武男コレクションを拠り所に、京都府で減少が顕在化しているスジボソヤマキチョウやジャノメチョウなどの象徴的な種や過去の生息場所の記録をWeb上で順次紹介していきたいと思います(生態や京都府の状況についての説明文には京都府RLの表記を改変引用させていただきました)。身近にある緑地環境の価値や変化を知る目安としてご利用ください。中尾史郎(京都府立大学)・松尾秀行(日本チョウ類保全協会)

ウラギンスジヒョウモン

Argyronome laodice japonica

 寄主植物は野生スミレ類で、草原に生息する。北海道から九州、ユーラシア に分布する。府内では山城地区・丹波区に分布するとされている。草原の減少によって個体群の減少が著しく、近年の情報はほとんどない。

環境省RL:絶滅危惧II類
京都府RL:絶滅危惧
標本:表 1977年6月12日 京都府与謝郡野田川町三河内
   裏 1979年6月11日 京都府中郡峰山町長岡

Argyronome laodice japonica

オオムラサキ

Sasakia charonda charonda

 北海道から本州に分布し、丘陵地の落葉広葉樹林を生息場所とする。造成、治山治水施工、里山環境の変化で減少しているが、京都市内の市街地周辺の樹林地でもしばしば観察できる。エノキを寄主植物とするが、個体群の維持にはまとまった規模の樹林地が必要である。天敵としてのカラス類の増加に留意する必要性が示唆され、かつては保護増殖事業が各地で盛んであった。しかし、養殖後の放飼個体の子世代以降が多発生しないことは、増えすぎたメダカを汚濁した水の流れる近所の排水路に捨てることに類似しているとの指摘も多く、近年では放蝶事業は謹まれる傾向である。個体群の維持にどの程度の集団サイズや遺伝的多様性が必要であるかは実務実証的な研究を待つしかなく、各地の地形に立脚した緑地育成の実践が望まれる。オンサイトによる保全が可能な種の保存は目的ではなく、結果であることを目指したい。

環境省RL:準絶滅危惧
京都府RL:絶滅危惧
標本:1976年6月17日 京都府宮津市 文殊、国分ほか

Sasakia charonda charonda

ギフチョウ

Luehdorfia japonica

 本州の低山地の落葉広葉樹林や植林地に出現し、林床に生育するミヤコアオイなどを寄主植物とする。京都では4月、カタクリの咲く頃に年1回羽化する。植林行為、および樹林地の管理放棄によって減少している。シカの食害による林床植生の貧弱化も減少に拍車をかけていると思われる。府の北部に散在する発生場所を保全することが望まれている。京都府の天然記念物(1984年:登録文化財)であり、現在、採集や飼育には注意を要する。

環境省RL:絶滅危惧II類
京都府RL:絶滅危惧
標本:1971年4月1日 京都府舞鶴市四面山
   京都府与謝郡野田川町石川ほか

Luehdorfia japonica

ツマグロキチョウ

Eurema laeta betheseba

 本州、四国、九州の草地や明るい林縁に生息する。採草地や河川敷に生育するカワラケツメイを寄主植物とする。成虫越冬で、秋の個体は長距離を移動する。1970年代末までは各地で普通種として発生していたが、植生遷移や河川環境整備によって全国で著しく減少した。史書「吾妻鏡」に記された1168年から1248年までの5回の黄蝶の大発生には本種も含まれていたかもしれない。幕府による軍用馬増強によって敷き藁の確保や牧草栽培がなされ、馬隊の頻繁な往来による荒れた原野はカワラケツメイを含む多くのマメ科植物の生育環境を拡大、維持したものと推察できる。最近50年では外来植物の侵入拡大もカワラケツメイのニッチを縮小してしまったかもしれない。この九百年の間に、西日本で普遍的な土地利用変化や環境整備のインパクトを強く受け、最も劇的に増加・減少しているチョウの1種と言えるだろう。

環境省RL:絶滅危惧IB類
京都府RL:絶滅危惧
標本:1983年9月25日 京都府与謝郡加悦町 金谷、滝ほか

Eurema laeta betheseba

ヒメキマダラヒカゲ

Zophoessa callipteris

 北海道、本州、四国、九州。国外では朝鮮半島、中国、ロシア南東部。ササ類が下層植生として密生する標高500m以上の雑木林に多産していたが、京都北山ではササ枯れとシカの採食により、食草であるササ類がなくなり、個体数は激減したという。ただし、丹後半島などササ類が枯死していない場所では現在も問題なく発生している。成虫は年1回、6月~9月に発生し、幼虫の寄主となるクマザサやチシマザサなどの植物周辺を飛翔するほか、近隣の花や樹液にも飛来する。越冬は3~4齢幼虫で行う。

環境省RL:なし
京都府RL:準絶滅危惧
標本:表 1997年8月26日 京都府与謝郡加悦町 鍋塚
   裏 1985年8月26日 京都府与謝郡加悦町 鍋塚
   京都府伊根町田坪、京都府宮津市上世屋 など

Zophoessa callipteris

地図

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